内田樹講演会『学びからの逃走・労働からの逃走』
内田さんの講演を聴くのは2回目である。
前回は書店主催の無料のトーク・イベントだったせいもあるのだろう、前の記事で紹介したような、合気道の話を手かがりに興味深い話を聴いたのだが、昨夜は受講料2800円という朝日カルチャーセンター「特別公開講座」という「お勉強」の場だったからであろうか、レジュメも用意された講義のような90分間だった。
講演のタイトルは「学びからの逃走・労働からの逃走」。
用意された3枚のレジュメには、次の5冊の本からのいくつかのバラグラフが引用されていた。
佐藤学『学力を問い直す』(岩波ブックレット/2001年)
諏訪哲二『オレ様化する子どもたち』(中公新書ラクレ/2005年)
刈谷剛彦『階層化日本と教育危機──不平等再生産から意欲格差社会(インセンティヴ・ディバイド
)』(有信社/2001年)
山田昌弘『希望格差社会──「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』(筑摩書房/2004年)
三浦展『下流社会──新たな階層集団の出現』(光文社新書/2005年)
ピッタリ90分間を飽かせることなく、笑いも取りながら、相変わらずの巧みな話術に敬服した。
今回のテーマは、私自身の最も強い関心事でもあり、話を聴きながらインスパイアされることがたくさんあったので、まだ書評で取り上げていない3冊の本の書評を通して改めて論じてみたいと思う。
引用されたどの本にも出てこない内田オリジナルの話を、一つだけ。
それは、スポーツに代表される「勝負事」にマスコミをあげてこれほど血道をあげるのは何故かということだ。
「勝ち負け」は時の運、などと言ってスポーツを観戦しているが、何千校の参加か知らないが高校野球で勝ち残るのは「たったの1校」だけであること。日本でトップのアスリートも、世界の強豪と競うと「負ける」こともある。
つまり、スポーツの本質は「負ける」ことにある、というのだ。
「ほんの一握りの勝者」だけが生まれ、参加者の「ほとんどが負ける」仕組みになっているスポーツに、文科省まで含めたエスタブリッシュメントがしきりに旗を振るのは、「負けることに馴れさせる」ためではないか、という指摘は面白かった。
先日取り上げた大阪府の公立高校の4学区制への再編も、結局そのことと同じだと思いながら聴いた。
「受験機会」は平等であり、数多くの高校を「受験できる」ようにはなるのだが、大半の生徒にとっては「落ちる機会」が増えるだけのことで、「一流校」に「勝ち残る」生徒はごく一握りである。
その「勝ち残った」と喜んでいる生徒も、その「一流校」の中でもランクづけられて「ほとんどは負ける」のであり、高校で「勝ち残った」一握りの生徒も、「一流大学」でまたランクづけられて「ほとんどは負ける」仕組みになっているのと同じなのだ。
「負けることに馴れさせる」か、なるほど、まったくその通りに違いない。
「負ける」のは、本人の「努力が足りないからだ」というイデオロギーが、経済界・中教審が提起した「自分探し」の路線そのものであるという最も重要な論議についても、稿を改めたい。
【内田樹関連記事】
2006年4月16日号「内田樹vs釈徹宗live対談『現代霊性論』──(1)」
2006年2月27日号「内田樹『知に働けば蔵が建つ』──(3)靖国問題」
2006年2月25日号「内田樹『知に働けば蔵が建つ』──(2)「日の丸・君が代」
2006年2月21日号「内田樹『知に働けば蔵が建つ』──(1)大衆社会とは」
2005年12月19日号「内田樹『街場のアメリカ論』」
2005年12月7日号「内田樹講演会『学びからの逃走・労働からの逃走』──(2)」
2005年11月14日号「女人禁制と性同一性障害」
2005年10月14日号「内田樹・春日武彦『健全な肉体に狂気は宿る──生きづらさの正体』
2005年9月9日号「内田樹「史上最弱のブロガー」」
2005年6月26日号「内田樹・名越康文『14歳の子を持つ親たちへ』」
2005年2月7日号「チアン先生はえらい !」
2004年12月28日号「キース・ジャレットの単音」
2004年11月9日号「身体感覚と時間のコントロールについて」
【関連記事】
2005年11月20日号「三浦展『下流社会──新たな階層集団の出現』
2005年1月19日号「『希望格差社会──「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』」
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突然申し訳ございません。ご興味を持たれるであろう団体・個人のサイトにお送りしております。お誘い合わせの上、ぜひともいらしていただけま
すと幸いです。よろしくお願い致します。
オフィス然nature 第二回講演会
「性同一性障害と戸籍」
講師/大島俊之(九州国際大学法学部教授 弁護士)
針間克己(精神科医)
日時/4月6日(日)13:10開場13:30~16:30
場所/総評会館 (地下鉄千代田線「新御茶ノ水駅」B3出口目の前)
参加費/1000円
<事前申込制>メール/ftmjapan@mve.biglobe.ne.jp
FAX/03-5851-0431
大島俊之(おおしま としゆき)・・・九州国際大学法学部教授。弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同、大阪弁護士会)。大阪大学法学部卒。法
学博士。大阪府立大学の専任講師、助教授、神戸学院大学の法学部教授、法科大学院教授を経て、現職。カナダ首相出版賞受賞(1999年)尾中
郁夫・家族法学術賞受賞(2003年)。GID「性同一性障害」学会理事長。主要著書に『Q&A 性同一性障害と法律』(晃洋書房、2001
年)、『性同一性障害と法』(日本評論社、2002年)。『Q&A 性同一性障害って何?』(緑風出版、共著2003年)、『解説性同一性障
害者性別取扱特例法』(日本加除出版、2004年)。
針間克己・・・東京大学医学医学科卒業。東京大学医学部大学院博士課程修了。医学博士。日本性科学学会幹事長。性同一性障害研究会理事。日本
精神神経学会「性同一性障害に関する委員会」委員。Harry Benjamin International Gender Dysphori
a Association会員。専門:セ精神医学、性心理障害。著書:『性非行少年の心理療法』(有斐閣)、『一人ひとりの性を大切にして生
きる』(少年写真新聞社)、『Q&A 性同一性障害って何?』(共著、緑風出版)、『私たちの仲間』(訳著。緑風出版)ほか多数。2008年4月
「はりまメンタルクリニック」(千代田区神田小川町3-24-1-102)開院予定。
★講演によせて・・・
・ 性同一性障害特例法が施行されてから、すでに3年が経過しました。この特例法によって、多くの当事者の皆さんが、法的に望みの性別表記を
獲得され、幸せな生活を始められています。しかし、その一方で、特例法の規定する要件をクリアーできないために、性別表記の変更を実現するこ
とができない当事者の方々がいらっしゃいます。わたしは、性同一性障害特例法に関して、次の3つのことを訴えています。
1 特例法を改正して、「現に子がいないこと」という要件を削除すべきである。
2 様々な理由から、性別適合手術を受けることができない人達がいます。そうした人達にとって、戸籍上の性別表記の変更はともかくとして、住
民票、パスポート、保険証などの性別表記の変更を認めるべきである(いわゆる「中解決」の実現)。
3 中・長期的な課題として、「現に婚姻していないこと」という要件についても再検討すべきである。<大島俊之>
・ 最高裁の発表によれば、特例法によって平成18年末までに573名の性同一性障害者が戸籍変更を許可されています。しかし、それ以上の詳細な
データは明らかにされていません。わたしは、平成19年までに121名の性同一性障害者の戸籍変更のための診断書を作成しています。その分析に
よって、特例法の現状を示していきます。<針間克己>
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オフィス然natureとは・・・性同一性障害の啓発活動を二十年以上行っている、自身も女から男になった作家・大学教員の虎井まさ衛が、当
事者と そうではない人々が共に学び会える教育機関の設立を目指して2007年に立ち上げた事務所です。
投稿: オフィス然nature | 2008年3月30日 14:01