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2006年4月24日

内田樹vs釈徹宗live対談『現代霊性論』──(2)こんにゃく問答

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二人の対談は、落語の「こんにゃく問答」から、コミュニケーション能力の問題に移っていった。
「こんにゃく問答」は、旅の修行僧が、僧侶に化けたこんにゃく屋の男に、無言の行でおこなった禅問答で、偽坊主の正体を見破るどころか、立派な高僧だと勘違いしたまま去っていくおかしさを笑う噺である。
権威のある人物が、名もない庶民にコケにされる愚かさを笑う、狂言に似た構造になっている。

だが、と内田さんは言う。この出来事を通して、本当に得をしたのは誰か、と。
修行僧の無言の仕草を、こんにゃくを値切っているだけと受け止めた偽坊主と、偽坊主の仕草を高邁な禅の真理と受け止めた修行僧を比べると、騙して笑いものにしたこんにゃく屋ではなく、高僧になりすましたこんにゃく屋の仕草に、(送り手の意思には反した)誤解だったとはいえ禅の神髄を感受した、騙された修行僧のほうが、はるかに多くの豊かなメッセージを受信したのではないか、というのだ。

つまり、「発信者」のメッセージよりも「受信者」の感度によって、メッセージは豊かにも貧しくもなる。
「発信」することの重要性ばかりが強調されるが、むしろ「受信」することのほうこそ重要なのではないか、という。

その一例として、セクハラ・アカハラの話題が出された。
ハラスメントだと指摘され側は「そんなつもりでは言ってない」というのが通例である。
仮にそれが言い訳ではなかったとしても、「発信者」の意図に反して「受信者」の受け取ったメッセージは不快なものであったということだ。
「受信者」は、「発信者」の非言語的メッセージも同時に受け止めているので、例え表面的に見れば攻撃的で否定的な言語であっても、そこに信頼や愛情を感じることができれば、「誤解」を生み出す恐れは少なくなる。
最悪のメッセージを受け取ることも、最良のメッセージを受け取ることも、「受信者」によって決まるということは、こんにゃく問答と同じだというわけである。

いろいろな方向に回路が開かれていないと、殻が固い状態では、受信することが難しい、と釈さんは言う。
例えば「虫の鳴き声」をさまざまに聞き分ける文化が日本にはあるが、欧米では「ノイズ」で一括りにされる。
人間の言葉以外は「ノイズ」という文化なのだろう。
ところが、釈さんによると、そんな欧米人でも日本に長く住んでいると、「ノイズ」で一括りにはしなくなるのだそうだ。
逆に、日本人でも、欧米に長く住んでいると「ノイズ」としか聞こえなくなるという。

刺戟の多すぎる環境で生活すると、自己防衛のために、ガードを高くし、受信の感度を落とすしかない、と内田さんは言う。
まさに《感覚が鋭敏になるのは感覚が鋭敏になることによって利益が得られる場合に限られるから》だ。(内田樹『態度が悪くてすみません』「時の守護者」)
受信の感度を落とせば、「声が届かない」「話が通じない」といったコミュニケーションの不全に陥るのは当然である。
聴き手が受信の感度を落とせば、《送信する側も「出力」を下げるし、「どうでもいい情報」だけを選択的に流すようになる》(内田樹『態度が悪くてすみません』「若い人と話が通じないと思ったらどうすべきか」)。

感度のいい受信者は、「誰が送ったのか分からないメッセージ」さえ受け取ることができる。
言葉にならない「非言語的メッセージ」をどれだけ読解ができるか、それがコミュニケーション能力を決定する。
こんにゃく問答から始まった「コミュニケーション感度」の問題は、宗教的な体験にもつながっていく。(続く)

【内田樹関連記事】
2006年5月28日号「内田樹vs釈徹宗live対談『現代霊性論』──(4)科学主義と霊性
2006年5月26日号「内田樹vs釈徹宗live対談『現代霊性論』──(3)麻雀コミュニケーション理論
2006年4月16日号「内田樹vs釈徹宗live対談『現代霊性論』──(1)
2006年2月27日号「内田樹『知に働けば蔵が建つ』──(3)靖国問題
2006年2月25日号「内田樹『知に働けば蔵が建つ』──(2)「日の丸・君が代
2006年2月21日号「内田樹『知に働けば蔵が建つ』──(1)大衆社会とは
2005年12月19日号「内田樹『街場のアメリカ論』
2005年12月7日号「内田樹講演会『学びからの逃走・労働からの逃走』──(2)
2005年12月2日号「内田樹講演会『学びからの逃走・労働からの逃走』
2005年11月14日号「女人禁制と性同一性障害
2005年10月14日号「内田樹・春日武彦『健全な肉体に狂気は宿る──生きづらさの正体
2005年9月9日号「内田樹「史上最弱のブロガー」
2005年6月26日号「内田樹・名越康文『14歳の子を持つ親たちへ』
2005年2月7日号「チアン先生はえらい !
2004年12月28日号「キース・ジャレットの単音
2004年11月9日号「身体感覚と時間のコントロールについて

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