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2009年5月15日

裁判員制度スタートまで1週間

Media01

昨日(5月14日)放送のNHK『クローズアップ現代』で、1週間後にせまった裁判員制度が取り上げられていた。
取り上げることは大いに望ましいことだが、今回のこの番組の取り上げ方はかなり異様なものに思えた。
仮にも公共放送を標榜するなら、少なくとも賛否両論を紹介して問題の所在を掘り下げていく姿勢が必要だろう。
しかし、NHKは「何が何でも裁判員制度を推し進める」という立場だけをなぜか全面に露骨に表明していた。
何度も繰り返すが、これでは「報道機関」ではなく「広報機関」だ。

裁判員候補者となった人々への取材や、アメリカでの元陪審員の人々への取材は、この問題の本質にせまる重要な手がかりをいくつも提供していた。
しかし、明らかになっている「問題点」に注目するのではなく、国谷キャスターもコメンテーターのミステリー作家夏樹静子も、それを無視した。

例えば、121人の裁判員候補者の人々へのアンケート調査では、不安や忌避感を持った候補者の割合が高いことが紹介される。
当然そこから「なぜか」という方向を探るのが普通だと思うが、そうはならない。
そういう「間違った受け止め方」をしているのは、推進する側の「伝え方」のほうに問題がある、という結論に持って行く。
要するに、NHKは裁判員制度を推進させるためにメディアを利用しようとしているのだ。
これは報道機関として正しいやり方なのか。

ゲストの夏樹静子も、(彼女のミステリーは以前ずいぶんと読んで楽しませてもらったが)とにかく「肩の力を抜いて」参加することが必要だ、などと訳の分からないコメントを繰り返していた。
裁判員候補者の多くがなぜ不安や忌避感を持つのか、という問題こそ重要なのではないか。

アメリカの陪審員経験者への取材も興味深かったが、意図的な詐術が働いている。
そもそも、裁判員制度と陪審員制度とは似て非なるものであることくらい番組制作者は知っているはずなのだ。
陪審員は有罪か無罪かを評決するところまでで、量刑を決めるのは裁判官の役割と決まっている。(日本の裁判員は量刑まで決めさせられる)
裁判所が陪審員として呼び出しても、応じるのは3分の1くらいであって、応じなかったからといって日本のように罰せられるわけでもない。
さらに大きな違いは、アメリカの陪審員には「守秘義務」がなく、番組に登場した元陪審員の男性も、自分の経験を本に書いて出版する予定だという。
どちらがいい、という問題以前に、全然違うものをあたかも同じもののように並べて、「それに比べて日本は…」などと言わんばかりの番組構成が胡散臭いのだ。

元陪審員のその男性の場合も、裁判所に拘束された期間は3カ月だったとかで、その間仕事には十分な時間をとれなかったとか。
日本の裁判員制度は「仕事に支障はきたさない」「ごく短期間で済む」「誰でも出来る」といった宣伝ばかりが強調されて最優先されている。
裁判で拘束される時間が長くなると、それでもなくても不評な制度にますます反発が強まることを恐れているのだろう。
裁判は裁判員のためにあるのではない。たとえ時間がかかろうとも「裁かれる側」にとって十分な審理が保障されなければ大変なことになる。
裁判員のために時間短縮・スピード審理が優先されれば、「誤審」や「冤罪」が今まで以上に増えることにならないのか。

番組に登場したもう一人の元陪審員の男性は、裁判で見せられた「ショットガンで顔を撃ち抜かれた女性の写真」でショックを受け、1年くらいは悪夢に悩まされたと語っていた。
どうにか克服できるようになったのは、同じ裁判に参加した元陪審員の人々との会合で、自分の苦しみをお互いに気兼ねなく話し、同じ経験をした者同士でしか分かり合うことのできない心の傷を少しずつ癒すことができたからだという。
(このブログの記事でも、カナダの例を以前に紹介したが、陪審員制度のケアには不可欠のフォローなのだろう。)

凶悪事件だけに適用される裁判員制度でも、当然同じことが起こる。
検察側は、犯罪の残虐性を強調するためにもより悲惨な証拠写真などを裁判員に見せようとするだろう。
自分の意思に反して、なぜそんな残虐な現実に直面させられなければならないのか。
守秘義務に反すれば罰せられる規定のある裁判員制度で、誰にも打ち明けられず、誰にも聞いてもらうことを禁じられた心の傷は、たった一人で抱え込んでいかなければならない。
そんな重い荷物を、紙切れ一枚で強制的に背負わされる義務がどこにあるのか。
「召集令状」と同じだ、と言う人の考え方がとてもよく分かる。

取材映像からは、そうしたさまざまな問題が明らかになっているにもかかわらず、報道機関としてなぜそこを取り上げようとしないのか。
現実に起こりうるすべての問題から目を逸らし、ただただ「提灯持ち」一辺倒に終始した番組に、私はジャーナリズムの自殺を感じる。

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